写真・図版
阿弥陀如来像と高木慈恵住職。脇侍と光背はパネルが置かれている=滋賀県守山市木浜町

 作家井上靖が「天平の貴人」と称した国の重要文化財「木造十一面観音立像」が伝わる福林寺(滋賀県守山市木浜町)。阿弥陀如来像もあるが、脇侍の観音菩薩(ぼさつ)像と勢至菩薩像は織田信長による兵火で室町時代に焼失したとされ、復元を目指している。来秋、44年ぶりの本開帳を予定している木造十一面観音立像とともに、お披露目できればという。

 福林寺は平安時代初期、桓武天皇の勅願所として天台宗の宗祖・最澄が開いたとされる。本尊の木造十一面観音立像は平安時代後期の作とされ、顔がやさしく、肩から腰にかけての線がやわらかく、生身を感じさせるのが特徴だ。井上は県内にある十一面観音像を巡って書いた小説「星と祭」で「ひたすらに気品高い観音像」と表現している。

 寺にはほかに、阿弥陀三尊などが安置されていた。だが、兵火で寺は焼け、木造十一面観音立像や阿弥陀如来像は被害を免れたものの、阿弥陀如来像の脇侍2体は焼失したとされる。

 木造十一面観音立像は昨年5月から約100年ぶりに修理が実施され、今年3月に寺に戻ってきた。高木慈恵住職(76)はこれに合わせ、脇侍2体と阿弥陀如来像の光背を復元させ、本来の三尊形式を取り戻し、祈りの場として整備することを決意した。

 高木住職は「兵火で失った地域の文化をこの時代に取り戻し、未来に残していきたい。この活動を多くの人に知っていただき、慈悲の心が広がっていけば」と話す。

 寺では10月中旬まで脇侍2体の復元資金をクラウドファンディング(CF)で募っている。金額によって、寺の線香やお守り、トートバッグの進呈、散華、木造十一面観音立像との対面などを特典として予定している。詳しくは特設ウェブページ(https://camp-fire.jp/projects/752269/view)で。(松浦和夫)

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